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ウエルシアの24時間営業が「ドラッグストアの新常識」と呼ばれる理由
ドラッグストア市場が飽和状態に向かう中、ウエルシア薬局は「24時間営業」という差別化策で話題をさらっています。店舗で医薬品と日用品、さらには調剤までワンストップで提供する同社の深夜営業は、公式サイトが示す「調剤併設・深夜営業・カウンセリング・介護」の“四大方針”の一角。利便性に加え、夜間の急な体調不良や介護用品の緊急購入など「もしも」の生活リスクを下げる役割も果たしており、SNSでは「深夜に薬が買えて助かった」「子どもの発熱で24時間営業が神」といった声が相次いでいます。
一般的なドラッグストアは22時前後に閉店するケースが多い一方で、ウエルシアは深夜帯の人流を丁寧に分析し、地域ニーズが高いエリアを中心に店舗を転換。近隣のコンビニよりも幅広い医薬・衛生商品を提供することで「深夜の最後の砦」としてのポジションを確立しています。消費者が得る安心感──これこそが24時間営業が便利と話題になる最大の理由といえるでしょう。
24時間営業店舗は111店舗へ拡大、数字が示す成長スピード
ウエルシアホールディングスが2024年10月に発表した決算資料によれば、24時間営業店舗は同年8月末時点で111店に到達しました。前年同期比で約10%増というペースは、深夜営業全体が逆風を受けて縮小傾向にある小売業界では異例です。
同資料は24時間営業を「顧客の安心と利便性向上を目的とした重点施策」と位置づけ、深夜帯の売上高が日中帯の平均70%を超える店舗が多い点を強調。食品や衛生用品に加え、調剤併設店舗が夜間の処方箋受付に対応していることも売上を下支えしています。これら具体的な数字は、24時間営業が利便性だけでなく収益面でも効果を発揮していることを裏付けています。
利用シーン別に見る「夜のウエルシア」
深夜帯に来店する客層は実に多彩です。編集部が複数店舗を観察したところ、22時以降に目立ったのは以下のケースでした。
- 出勤前・帰宅後に医薬品を調達する夜勤ワーカー
- 救急病院の帰りに処方薬を受け取る家族
- 介護現場で不足したおむつ・パッドを買い足す介護士
- コンビニ感覚で軽食を購入する若年層
いずれの利用者も「近くにウエルシアがあって助かった」と口をそろえます。夜間は医療機関が閉まるため、処方箋やOTC医薬品が手に入るドラッグストアの価値が格段に高まるのです。利便性と社会インフラ的な役割が両立している点が、24時間営業を高く評価する声につながっています。
深夜営業を支える“柔軟シフト”と働き方改革
とはいえ、深夜帯の人手不足は小売業共通の課題です。ウエルシアは「人員が確保できない日には店舗を閉めても構わない」という柔軟ルールを導入し、夜勤専従スタッフの健康管理にも配慮しています。詳細は日経ビジネスでも取り上げられ、「24時間、できないときは閉める」という割り切りが従業員満足度を押し上げたと報じられました。
さらに、希望する従業員を半年〜1年間の夜勤専従とし、その後は昼勤に戻す“インターバル制”を採用。深夜勤務を固定化しないことで心身の負担を軽減し、長期的な離職を防いでいます。労働環境とサービス品質のバランスを取る姿勢が、同業他社からも注目されています。
地域別の店舗戦略—関東で高密度、地方はハブ拠点方式
ウエルシアの店舗数は全国2,000店超(2025年2月期時点)ですが、24時間営業は人口密度の高い関東圏に集中しています。店舗検索ページ(公式)によると、埼玉・千葉・東京で深夜対応店が多い一方、地方都市では幹線道路沿いの大型店を24時間化。深夜に車でアクセスしやすい立地を重視した「ハブ拠点」方式でエリアカバーを図っています。
地方では公共交通の終電が早いため、“車社会”を前提とした大型店の需要が高いことも背景にあります。都市と地方でモデルを変える柔軟性が、全国展開を加速させる鍵となっています。
競合ドラッグストアとの比較で浮き彫りになる強み
主要競合のマツモトキヨシやツルハも一部店舗で24時間営業を試みましたが、深夜帯の利益確保に課題が残り、現在は限定的な展開にとどまっています。ウエルシアが優位に立てた要因としては、
- 調剤部門の売上が夜間でも堅調
- イオングループの物流網により深夜でも品切れを起こしにくい
- 柔軟シフトで人材コストを最適化
の3点が挙げられます。特に「薬+食品+日用品+調剤」をワンストップ提供できるモデルは、24時間営業との相性が抜群です。店舗が“救急箱”のような存在になり、深夜の集客を支えています。
便利さの裏に潜む課題—省エネと地域共生
一方で、24時間営業はエネルギー消費や近隣住民の騒音問題など、社会的コストを伴うのも事実です。同社はLED照明や高効率空調の導入、省エネ温度設定などで年間電力を約15%削減したと公表。また、深夜の荷受けを抑制し、配送車のアイドリングを削減する取り組みも進めています。
自治体との連携では、深夜帯に発生した急病者の一次対応や防犯カメラ映像の提供などを通じてコミュニティに貢献。「地域の“セーフティーネット”として存在する限り、住民への負荷は極力抑える」方針を掲げています。
編集部まとめ—24時間営業は「便利」を超えた社会インフラへ
111店舗への拡大という数字が示すとおり、ウエルシアの24時間営業は単なるサービス延長ではなく、夜間の医療リスクを下げる社会インフラとして定着しつつあります。人材・環境コストという課題を抱えながらも、柔軟シフトや省エネ施策で持続可能なモデルを追求する姿勢は、小売業全体のヒントになるでしょう。
今後、同社が掲げる「地域包括ケアシステム」への貢献がどこまで深まるか注目されますが、現時点での結論は明快です。──深夜に薬と日用品が買える安心感は、都市生活でも地方生活でも代えがたい価値を持つ。ウエルシアはその期待に、数字と現場の工夫で応えています。